鹿肉のタタキを食べて「それでも火を通そう」と思った理由

最近Xで見かける、鹿肉のタタキをフィーチャーしたリール動画が流れてまして、界隈では若干炎上気味のようです。

くわえて、鳥刺しの是非についてもXで議論が活発です。

自分はというと、自分の手で捕獲・解体した鹿肉を自分で調理して、タタキにして食べたことがあります。

ぶっちゃけ過去イチで美味かったです。でも、それでも今後は火を通して食おう、と思いました。

このあたりについて、自分なりの考えをまとめておこうとおもいました。


目次

鶏刺しの本場

自分は宮崎の出身です。

鹿児島〜宮崎あたりは、鶏刺しや鶏のタタキの名産地で、スーパーに当たり前のように並んでいます。

その上で正直に書きますが、それで「当たった」のは大学のとき一度だけです。

学生時代お金がなくて、近所のスーパーで一番安かった鶏胸肉を、表面だけ焼き目をつけて冷凍、半解凍にしてスライス、ニンニク醤油で食べる…を繰り返し食べていた頃の話です。

1年間くらい金がないときにこれを繰り返してると、ある晩、猛烈な腹痛で眠れなくなりました。(今考えてみると当時の自分かなり頭イカれてるなとも思うんですが)。

これ以降、こういった調理法はやめて、ちゃんとした適切な地鶏などで調理するようにしました。

それ以降、鳥刺しで当たった経験は、一度もありません。

ネットの議論を見ていても、「文化が違う派」と「危険派」がぶつかっていて、たぶんどちらの体験も嘘ではないのだろうと思います。

ただ、ひとつ大事なポイントがあると思っています。

九州の鶏刺し文化は、それを商売としてやっているプロのラインが整っている前提で成り立っています。

スーパーで売られている鶏刺し用の肉は、専用の処理ラインを通ってきています。

表面の殺菌、捌き方、保管温度、流通スピード、ぜんぶ前提条件が違います。

そもそも「刺身用」として出回っている肉ですからね。徹底した衛生管理がされてるものです。

これと、「ジビエ肉を生で食べる」ことを、同じ感覚で並べるのは少し違うんじゃないかと思っています。


鹿のヒレ肉を食べてみて

ここから先は、自分の体験談のようなものです。

いくつかの猟隊を出入りしていて、先輩猟師と話していると、何人もの人が「鹿の刺身は信じられんくらい美味い」「タタキにして食うと美味い」といった話をききます。

先輩の世代はそれを当たり前に食べてきたそうで、絶品なのだとか。

あるとき、自分で仕留めた雄鹿の立派なヒレがとれた日がありました。

焦げ目をつけてタタキにしてみました。

褒められた話ではありませんが、ただ事実として、試しました。

正直に書きます。美味しかったです。焼くより、ずっと美味しかったです。

焼いたレバーとレバ刺しの違いみたいなもんです。鹿肉特有のクセもなく、ただ旨味だけが焼いたソレと桁違いでした。

ただ、一口目で、「ああ、これはダメだ」と思ったわけです。


もう生では食べないと決めた理由

食べてみて気づいたのは、「これを食べるのが当たり前になると、焼いて食べるという選択肢が消える」ということでした。

美味しさには、慣れます。

一度この体験をしてしまうと、次に焼いて食べるときに「生のほうが美味しかったな」という記憶がついて回ります。そうなると、また生で食べたくなりますからね。回数が増えていきますと、リスクとの付き合いが、日常になっていきます。

いやー、これはまずい、と思いました。

これから狩猟を何十年も続けていきたいと思っています。続けていくために、自分のメンタルとリスクの距離は、慎重に設計しておきたい。

加えて、自分の猟師としての活動を、周りに理解してもらえるような立ち振舞をしなければならない。

なので、もう自分のルールとして、もう生では食べないと決めた理由です。


解体の現場で見えること

私は解体するとき、けっこう時間をかけるほうです。腸を破らないよう、尿袋を破らないよう、皮の外側の汚れが肉につかないよう、念入りに作業しています。

一方で、一部の猟師の解体を見ていると、もっとサクサク進みます。腸を破ってしまうこともあります。

腸を破るというのは、お腹の中の消化物や糞が、肋の内側や肉に直接触れる、ということです。

それを洗い流すために腹腔に水を流し込みます。すると、その水が糞と一緒に肉の上を流れていきます。肉、足、手、いろんなところに、汚れたものが流れていくのを目の前で見ます。

枝肉として目の前に出てきたときには、見た目はきれいになっています。

でも、ここに来るまでの過程は、その肉を解体した本人にしかわかりません。

私がもし、誰かから「いい肉が手に入ったから、食べてみて」と渡されたとして、その肉がどんな解体を経てきたのか、私には判断できません。

腸が破れたかどうか、尿袋が漏れたかどうか、洗浄に何を使ったか、温度管理はどうだったか、ぜんぶ見えません。

枝肉になった時点で、過程はもう肉に書かれていないんです。

これが、私が人に「ジビエを生では食べてはいけない」と伝えている、いちばんの理由です。

ちなみに、食肉処理場で処理されたジビエ肉については、衛生管理場は問題ないかもしれません。

が、そもそもの話、鹿に大量のダニや寄生虫がついているのを当たり前のように見ているので、適切に処理されたものであっても人におすすめはできないですね。


厚労省は「絶対にやめてください」と明示している

厚生労働省は、野生鳥獣肉(ジビエ)の生食について、明確に「絶対に行わないでください」と注意喚起しています。鹿肉も例外ではなく、特にE型肝炎ウイルス、腸管出血性大腸菌(O157など)、寄生虫(住肉胞子虫など)のリスクが指摘されています。

過去には、鹿肉の生食による死亡例も報告されています。鹿は健康そうに見えてもこれらを保有していることがあり、見た目では判断できないそうです。

これは「気をつければ大丈夫」ではなく、「中心部までしっかり加熱してください」というのが公的な指針です。

私には、これに反論する根拠を持ち合わせていません。


まとめ:自分で獲って、火を通して食べる

長くなりましたが、最後にまとめます。

  • 鹿肉のタタキは、確かに美味しいです。これは認めます。
  • ただ、それを「美味しい」だけで広めるのは、少し怖いと思っています。
  • 解体の過程は、肉になった時点でもう見えなくなります。
  • 自分で獲って自分で解体したものでも、私はもう生では食べません。
  • まして、出所のわからないジビエを生で食べるのは、避けたほうがいいと思います。
  • 公的にも、そういう指針になっています。

獲った肉を、自分の手で捌いて、火を通して、家族や仲間と食べる。

これ以上に贅沢な食べ方は、たぶん無いと思っています。

ちなみに先日、アニサキスにやられました。生食を気をつけないといけないのは、何もジビエや鳥刺しに限った話ではない、ということだとおもいます。ね?

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次