失敗を知らない鹿肉のロースト、自分なりのつくり方

料理は15年以上ずっと続けている。家では朝食が妻、晩御飯が自分、という分担。とにかく食べることが好きで、その結果、料理も好きになってしまった。

狩猟をはじめたきっかけも、もともとは「美味しいお肉を腹いっぱい食べたい」というところからだった。自分で捕ったシカやイノシシ、あるいはグループ猟で捕獲したシカやイノシシを、どうすれば美味しく食べられるか——このテーマをずっと考え続けている。

Xでよく鹿肉のローストを投稿しているのだけれど、上げるたびにたくさんのいいねやコメントをいただく。せっかくなので、自分なりのやり方をここでまとめておこうと思った。

やり方は人によって違うはずなので、この記事はあくまで「自分はこうしている」という一例として読んでほしい。

工程は大きく3段階だ。

  1. 仕込み(マリネして半日寝かせる)
  2. 火入れ(常温に戻してからオーブンで低温加熱)
  3. 仕上げ(フライパンで焼き固めて焦げ目をつける)

目次

使う部位について

ローストしたことがある部位は4つ。背ロース/シンタマ/内モモ/外モモ。それぞれ特徴が違うので、順に書いていく。

背ロース——一番間違いない

背ロース

自分はニホンジカしか使わないので、エゾシカについては分からない。ニホンジカの背ロースは、正直そんなに量が取れない。家族4人で食べて「ちょっと足りないな」というくらいの分量になる。

ただし、背ロースには基本的に大きな筋が入っていないので、ものすごく柔らかく食べられる。細長い形をしているので、火が均一に入りやすいというメリットもある。

背ロースのロースト

ローストするなら、量は取れないけれど、間違いなく美味しい。それが背ロース。

シンタマ——歩留まりがよく、家族の評判もいい

シンタマ

シンタマは、しっかりブロックごとに解体していれば、きれいな楕円の形になる。中に筋が2〜3本ほど入っているのだけれど、ローストして薄切りにしてしまえば、その筋も気にならずに美味しく食べられる。

シンタマのロースト

デメリットというか気を使わないといけないのは、形が大きいので火入れの時間を長めに取る必要があるという点。

内モモ——貴重で、抜群に美味しい

内もも

内モモもとても柔らかくて、おすすめの部位だ。ただ、内モモは骨抜きをして切り取ったあとに、さらに3つのブロックに分けることができる。「薄い内モモ」と「ちっちゃい内モモ」と「大きい内モモ」——正確な呼び方は忘れたが、そんな感じで3つに分かれる(記憶ベース)。

内もものロースト

一番大きいブロックだけをローストにすると、これも抜群に美味しい。ただ、切り分けてしまうと残りの2つが使いづらくなるので、この端をどう調理するかで頭を悩ませることがある。

自分の場合は、内モモは細かく分けずに、ブロックごとスライスしてステーキにすることが多い。繊維に逆らって輪切りにして、そのまま焼いてステーキで食べる。

内もものステーキ

内モモの塊のままローストしようとすると、変な火の入り方になってしまうことがあるので、ローストするなら、それぞれのブロックにきちんと解体してから使うというのが自分なりの結論だ。ちょっと贅沢な使い方ではある。

外モモ——一番動く部位、硬めでザラつく

外もも

外モモはやっぱりどうしても一番動く部位なので、硬いと感じた。自分もローストして食べたことがあるのだけれど、ザラザラする——繊維質というか、すごく「筋肉の味」がする、と言えば伝わるだろうか。

外もものロースト。繊維が大きい。

自分としては、外モモはローストにするよりも、薄切りにして味の濃いものと合わせてワイルドに食べる方が好きだ。

鹿のソトモモはBBQと相性抜群

1回だけ、量が結構取れるので試しに外モモをローストしてみたのだけれど、「これだったら内モモか背ロースにしたほうがいいな」と思って、それ以降はやっていない。「ワイルドな動きをする部位は、ワイルドな味付けで食べたほうがいい」——というのが自分なりの結論。

番外:シキンボウ

外モモの一番大きいブロックの横に、ヒレに似たシキンボウというパーツがついている。見た目はヒレっぽくて、筋が全く入っていないので、歯に引っかかることもなく使い勝手のいい部位だ。

ただし、これをローストするには小さすぎる。かといって外モモと一緒にローストすると、見た目も変になるし、火が入りすぎてしまう。シキンボウは切り分けて、別の調理にしたほうがいい。うちではよく、唐揚げにしたり、薄切りにして天ぷらにしたりする。

鹿の天ぷら

外モモを扱うときは、シキンボウと外モモを分けて使うのが自分のおすすめだ。


仕込み——マリネする

ここからが本編。まずは仕込み(マリネ)から。

基本のマリネ液

分量は全部目分量になるけれど、うちで使っているのはこれ。

  • バルサミコ酢
  • オリーブオイル
  • ローリエ(香りづけ)
  • 黒胡椒(バババっと結構な量)
  • オールスパイス(うちで加えている)
  • にんにく(小さじ1ぐらい)

これらを全部ビニール袋に入れて、肉と一緒に冷蔵庫で半日ほど寝かせる

バルサミコ酢がなくてカンタン酢でマリネしたときの写真

バルサミコ酢はスーパーで1本600円くらいで売っている。もし手元になければカンタン酢でも代用できるのだけれど、色々試した結果、バルサミコ酢を使うのが一番美味しいという結論に落ち着いた。

なぜマリネするのか——油膜と柔らかさ

肉に油をまとわせることで、水分が中から抜けにくくなる。これが大きい。油を足さずにローストしたり焼いたりすると、水分が抜けすぎてパサパサになってしまう——というのが赤身肉の特徴だ。

だから、鹿肉のような脂身の少ない赤身(牛肉でいうモモの部分もそう)は、一度マリネで油をコーティングしてから調理してあげたほうが美味しく食べられる。

もうひとつ、カンタン酢やバルサミコ酢を使う理由は、肉を柔らかくしてくれる効果があるからだ。もちろん臭み消しにもなる。カンタン酢には砂糖も入っているのだけれど、砂糖自体にも肉を柔らかくする効果があるらしい。そういう意味では、カンタン酢は実はすごく使い勝手がいい。

ただ、うちはバルサミコ酢を買ってからは、本当に楽したいときしかカンタン酢を使わない。基本はバルサミコ酢+オリーブオイルでマリネしている。

余談:バルサミコ酢の匂いはかなり強い

うちの子供たちは、バルサミコ酢のことを「足の裏の匂いがする」と言っている。実際、匂いはかなり強烈だ。冷蔵庫の中で他の食材に匂いが移ると困るので、ビニール袋は二重にしてマリネするようにしてほしい。


常温に戻す、水気を切る

半日寝かせた肉を冷蔵庫から出して、まず常温に戻す。普通に外に出して1時間ほど放置すれば、常温になる。

このあとが大事で、肉の表面についているマリネ液の水分をしっかり拭き取る。これを怠ると、ロースト中に中から水分が出てきて、「焼く」というより「煮る」に近い状態になってしまう。

なおこのとき、バルサミコ酢でマリネしたら、肉がポリフェノールで黒くなる。バルサミコでマリネした肉が焼き上がり真っ黒になるのはこれが理由。

いずれにせよ、しっかり水気を切ってから、火入れに入る。


火入れ——「リバースシア」というやり方

うちで採用しているのはリバースシア(Reverse Sear)というやり方。フランス料理人の知り合いに「鹿肉ならこれが失敗しにくいよ」と教えてもらった方法だ。

普通のローストとの違い

一般的なローストは、まずフライパンで表面を焼き固めてから、オーブンで中に火を入れていく。

リバースシアはこれが逆になる。まずオーブンで低温でじっくり火を入れて、最後にフライパンで表面を焼き固める——というやり方だ。

なぜリバースシアが良いか

一般的な方法だと、表面を焼き固めてからオーブンに入れる過程で、どうしても表面が焼きすぎになりやすい。リバースシアは、全体に火が通ったあとに表面だけを焼くので、焼きすぎる必要がない。

本当に表面1ミリぐらいだけ香ばしく焼き目がついて、中はロゼの状態(ローストした肉がピンク色になった状態)で仕上がる。これがリバースシアのメリットだ。

温度の話——80℃と100℃

このやり方の唯一の難点は、低温で使えるオーブンでないと難しいという点。

フランス料理人に教わったやり方だと、80℃で30分〜80分火入れするという話だった。ただ、うちのオーブンは80℃設定ができないので、100℃で代用している。

このために嫁を説得して良いオーブンを買った

80℃でも100℃でも、正直あまり変わらなかった、というのが素人としての感想だ。オーブンで100℃設定ができるなら、このやり方は可能だと思ってもらっていい。

実際の手順

  1. オーブンを240℃で予熱する
  2. 予熱ができたら肉を入れる
  3. すぐに設定温度を100℃に切り替える(高い温度から徐々に100℃まで下がる形で火入れする)

部位別・火入れ時間の目安

100℃で火入れする時間は、部位と大きさで調整する。ニホンジカの場合、うちでの目安は次の通り。

部位火入れ時間の目安
背ロース30分
シンタマ60分(大きめなら70分・オスの大きい個体なら80分)
内モモ45分
外モモ50〜60分(大きい場合は1時間・まずは50分で様子を見る)

火入れの途中、全体の時間の6割ほど経ったところで、肉を一度ひっくり返す。30分なら16〜17分あたり、1時間なら35〜40分あたり。これで火が均一に通る。

油膜をつくって、マリネ液の水分をしっかり拭き取っていれば、表面が乾いて、肉から水分が浮いてくることはないはず。ここは見ながら確認してほしい。


仕上げ——フライパンで焼き固める

オーブンでの火入れが終わったら、フライパンで無塩バターを溶かす。

強火、中火、ここは好みで。うちは中火で、肉の四方それぞれ20秒ずつ焼いていく。全体で言うと、周りをぐるっと20秒ずつ焼き固めていくイメージだ。肉がパチパチ音を立てて焼ければOK。

これが終わったら、バットやカッティングボードの上に肉を乗せて休ませる

本格的なローストビーフのやり方だと、「肉を休ませる → 中から出てきた肉汁を、さらに休ませて肉の中に戻す」というような工程があるらしいのだけれど、正直、自分にはその違いが分からなかった。面倒なので、うちではやっていない。簡易化していいと思う。

あとは薄切りにして食べるだけ。


ソース

ソースは、無塩バターで肉を焼き固めたフライパンをそのまま使う。バターと、もし肉汁が出ていれば肉汁も、そのままにしておく

そこに、次の4つを加えて煮詰めていく。

  • 醤油
  • 料理酒(または白ワイン、どちらでも)
  • バルサミコ酢
  • はちみつ

冷えるとソースがカチカチに固まってしまうので、煮詰めすぎには注意する。

目安は、それぞれの調味料が混ざり合って、バルサミコ酢の酸味が飛んで、フライパンであぶくが沸き始めたところ。「本当に泡みたいになり始めた」ら、そこで火を止めていい。容器に移してソースの完成。


塩は、食べる直前に振る

食べる前に、ローストしたお肉にしっかり塩を振る。おすすめは岩塩か藻塩だ。

人によっては、ローストして火入れする前にもう先に肉の表面に塩を振る人もいる。でも、それをやると焼いている間に中から水分が出てしまうので、うちは焼き上がって、食べる直前に塩を振るようにしている。これが一番美味しかった。

塩の量は、肉全体の重量の1%というのが定説だ。ただ、ソースがあるので、気持ち塩味がするくらいでもいいと思う。自分としては1%は少し多すぎる気がしているので、そこは好みで調整してほしい。


最後に

以上が、失敗を知らない鹿肉のローストのレシピ。必要なことは全部書いたと思う。あとは、食べるだけ。

あくまで我流のやり方なので、これが正解というわけではないということは、ご理解いただければ幸いです。もし分からないことや、調理法について気になることがあれば、コメントをください。

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